Update - 24 Dec 2020  User PageInjection

射出成形金型

成形立ち会いで「大丈夫です!」と言われたら

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 射出成形における事故防止のため、最低限のチェック項目(26項目)を説明しています。金型メーカ・成形メーカとの打ち合わせや成形立ち会いなどで役立てて下さい。

 人任せにせず、自分自身でチェックすることが大事です。成形立会いに行った場合は必ず成形現場を確認してください。下記のチェックリストで成形試作前に問題点を発見したら、躊躇なく成形試作は中止してください。

 金型メーカや成形メーカに「大丈夫です!」と言われたら反論できるように、話題に入れる程度の知識は持つようにしてください。「金型のことなんか知らないくせに」とか「成形なんてしたこともないくせに」とか言われないためにも。

01. スライドコアと突出しピンの干渉

  • スライドコアと突出しピンが干渉していませんか?
  • スライドコアの下面に突出しピンがある場合は中止して下さい。
    • 突出しピンはひとつつの金型に複数本ありますが、それ自身の抵抗、その他コアの抵抗、スライドコアの焼き付き等によって、折れたり曲ったりする場合があります。この時、突出しピンが完全に戻らずに途中で止まった状態になっていると、金型を閉じる時にスライドコアとぶつかってしまいます。

    • 従って、金型メーカから「チェッカーをつけます」、「金型の動作タイミングで避けます」などと説明されたとしても、突き出しピンが途中で止まってしまえば同じことなので、スライドコアの下面にある突き出しピンを中止する以外に事故を防ぐ方法はありません。

02. スライドコア接触部の勾配

  • スライドコアとコア(又はキャビティ)の接触部には勾配がありますか?
  • 最低 2.5゜の勾配が必要です。
    • スライドコアは常にコア(又はキャビティ)と接触しながら動作するため、摺動面に勾配がないと摩擦抵抗が大きくなってしまいます。特に金型温度が上昇すると摩擦抵抗も大きくなり、スライドコアの焼き付きやカジリによる動作不良で、フィンガーピンが折れてしまうこともあります。

      このため、摺動部には最低でも 2.5゜の勾配をつけるようにします。この勾配によって、型締めが完了する直前(型開き時は開き始める時)に摺動面が接触するだけなので、摩擦抵抗を最小にすることができます。

03. スライドコア摺動部の硬度

  • スライドコアとコアの摺動部は材料硬度を変えてありますか?
  • 通常はスライドコア側の硬度を高くするように指示します。
    • 同一硬度の材質が常に摺動していると、お互いが熱を持って焼き付きが起こりやすくなります。硬度が異なっていれば、軟らかい材料の方が硬い材料の方になじむため、摺動部のカジリを防止できます。

      基本的に、スライドコア側の摺動面には焼入れ材 を用いるか、窒化焼入れを行なって、硬度を上げるようにしなければなりません。

04. スライドコアの油溝

  • スライドコアの摺動部に油溝が加工されていますか?
  • 油溝は 10〜15mm 程度のピッチで必ず加工すること。
    • 油溝(ピッチ10〜15mm 程度)を設けることによって、摺動部へ塗布されたオイル(グリス)は溝の中を移動しながら潤滑効果を長く保持し、オイルロスも少なくなります。スライドコアの焼き付きやカジリの原因となるゴミなども油溝に吸収されます 。

05. スライドコアの動作

  • スライドコアの動作は正常ですか?
  • スライドコアを手で押してみて、スムーズに摺動するか確認して下さい。
    • スライドコアに戻しばねが取り付けられているか、ばねの荷重は適正か、などをチェックしてください。手で押してみて、スムーズに摺動するか、確認します。

06. 冷却回路の加工

  • 冷却回路(水孔)は加工されていますか?
  • キャビティ板、コア板だけでなく、スライドコア、取付板にも必要です。
    • 冷却回路は金型構造の一部で、金型内で製品の形状を安定させ、金型から取り出された製品に変形、反り、ヒケ等を発生させないような役割を担っています。特に指示しなかった場合、スライドコアに冷却回路を加工しない金型メーカもありますから、注意が必要です。

      射出成形金型は熱交換器であるということを忘れないようにして下さい。金型の板ごとに温度差があると、金型の動作にも影響します。

07. 冷却水もれ

  • 冷却水を通してみて問題ありませんか?
  • 冷却水もれ、冷却容量不足、部分的な冷却不足がある場合は必ず対策して下さい。
    • 冷却回路に水(又は温水)を通した時、金型全体が均等に冷却されていることが重要です。特に、ブッシングコア、ボス、格子部、ハンドルのコア等の様に孤立した小さなコアは過熱しやすいので、ヒートパイプ方式等の冷却構造を採用することも必要となります。

08. 成形サイクルタイム

  • 成形サイクルタイムは適正ですか?
  • コストに影響するので、必ず確認して下さい。
    • 冷却が不完全であったり、離型性が悪いと成形サイクルタイムが長くなり、部品単価のコストアップにつながります。短サイクル化を計るためには冷却をいかに効率良く行なうかが重要で、冷却回路、突き出しピン、スプール・ランナの構造が関係しています。

      標準的な成形サイクルタイムの値を下表に示しますので、参考にして下さい。

    • クラス 成形機(ton) サイクルタイム(sec)
      小物 000〜150 20
      中小物  150〜300 35
      中物 350〜450 40
      大物 550〜650 50

09. 成形機の型締力

  • 成形機の型締力は適正ですか?
  • 大きすぎても小さ過ぎても、問題があります。
    • 型締力の不足は、バリ、反り、ヒケの発生要因となりますし、過大な場合は反り、焼け、フロー等の発生要因となります。成形機の場合、大は小を兼ねることはありません。成形メーカに「型締力を合わせたのでOKです」と言われても信用しないでください。

      また、射出シリンダーにも「大」、「中」、「小」があります。成形メーカに「この成形機は大物、小物両方成形できるんです」と言われても信用しないで下さい。

      標準的な型締め力は下記の式から算出できますが、高圧で成形しなければならない物や金型構造上避けられない物については、計算値よりワンランク上の成形機を使用することも必要です。

       ゲート 成形機(ton) 
      ピンゲート 製品投影面積(cu)×0.4(ton/cu)+10〜15%
      ダイレクトゲート 製品投影面積(cu)×0.5(ton/cu)+10〜15%

10. サポータ(サポートピラー)

  • サポータが設けられていますか?バランスよく配置されていますか?
  • サポータは金型の大小に関係なく必要です。設けられていない場合は追加するよう、金型メーカに指示して下さい。
    • 金型のコアプレートと取付板の間は突出し板を動作させるための空間となっていますので、射出時の圧力(約100kg/cm2)によってコアプレートには歪みが発生します。これを防止するために、取付板とコアプレートの間にバランスよくサポータ(丸棒状の支え)を設けるのですが、射出圧を上げたときにバリが発生する場合などは、サポータの有無と配置バランスを調べてみる必要があります。

      金型メーカからは「ゲタの間隔がせまいから」、「コアプレートが厚いから」、「金型が小さいから」などの理由で「サポータは必要ない」と言われる場合がありますが、それは間違いです。サポータは金型の大小に関係なく必要なものですから、必ず追加する様に金型メーカに指示して下さい。特に、金型発注時には指示もれのないように注意して下さい。

      サポータが省略された金型

11. キャビティプレートのおじぎ

  • ピンゲート方式の場合、キャビティプレートがおじぎしていませんか?
  • ガイドピンの径がキャビティプレートの質量に耐えられる寸法になっているかどうか確認して下さい。
    • キャビティプレートがおじぎする原因は、ガイドピンやストッパーボルトが細すぎたり、ガタが大きいことにあります。おじぎするとガイドピンのこじれが発生するので、成形を重ねるたびに大きくなったり、カジリによってランナプレートが動作しなくなったりします。

      ガイドピンの直径は 200ton クラスで Φ40 以上、450ton クラスで Φ60 以上でないと、キャビティプレートの質量に耐えられません。

12. 型開き時や製品離型時の異音

  • 型開き時や製品の離型時に異常な音が発生していませんか?
  • 型温を上げた(70℃程度)時、突出し機構部に異常な音が発生していませんか?
    • 異音が発生しているということは、どこかに無理な力が加わっているということです。コア側のカジリ、キャビティへの製品取られ、突出しピンやスライドコアのカジリなどが考えられます。

      まず、どこから異音が発生しているのかを見つけて、その原因を取り除くような対策を行なって下さい。

13. 傾斜ピン(倒れピン)部の段差

  • 傾斜ピン(倒れピン)部は製品面と同一か、凸0.1 程度になっていますか?
  • 製品で凹になっている場合は金型修正が必要です。
    • 傾斜ピン部が製品で凹になっていると、離型時に傾斜ピンが製品をむりやり削ってスライドすることになります。このような状態では離型するたびに傾斜ピンにストレスが加わりますので、傾斜ピンの破損や、製品の変形等の原因になります。

      傾斜ピン部は必ず製品面と同一か、凸0.1 程度にしなければなりません。

14. 細い突き出しピン

  • 突き出しピンは細すぎず、バランスよく配置されていますか?
  • Φ2 以下の突き出しピンは折れやすいので、特別な理由がない限り使用しないでください。
    • 突出しピンが細いと、ピンの変形・破損や突出しクラックの原因となります。特別な理由がない限り、Φ2 以下の突き出しピンは使用しない様にして下さい。

15. 突き出しピンの回転止め

  • 先端が斜めになっている突き出しピンには回転止めが設けられていますか?
  • 成形中に突き出しピンが回転しない様に、回転止めが必要です。
    • 先端が斜めになっている突き出しピンが成形中に回転すると、金型を閉じた時、形状によってはキャビティ側に傷をつけてしまいます。このような突き出しピンには必ず回転止めをつけることが必要です。

16. スプール、ランナ、ゲート

  • スプール、ランナを入手し、持ち帰りましたか?
  • 断面形状(半丸は不可、円形又は台形)は指示どうりですか、ミガキは十分ですか?
    • スプール、ランナ、ゲートは成形品の品質及び材料費に大きく影響します。断面形状は樹脂の流れをよくするため、円形または台形とし、半丸となっている場合は金型メーカに形状を変更させて下さい。成形立会い時には、これらを必ず持ち帰るようにして下さい。

      製品の検討は射出された樹脂の流れ(スプール→ランナ→ゲート→製品)に沿って進めることが重要です。製品だけをいくら検討しても、解決策を見出せないことも多いのです。

      資料: 株式会社エイト様 http://www.eight-ltd.co.jp/

17. 水滴防止溝の加工

  • 水滴防止溝は加工されていますか?
    • 金型の外壁についた水滴が P/L から金型内部へ入り込むのを防止するため、キャビティプレート及びコアプレートのP/L から 15mm の位置に 巾10mm×深さ 5mm の溝を加工すると有効です。

18. エッチングの指定

  • エッチングの指定は適切ですか?
  • 立上り面は平面部と同じパターンで、深さを 1/2 程度に加工するよう指示して下さい。
    • エッチング面は金型でアンダカットになっていることを念頭において、エッチングの指定を行なうようにして下さい。エッチングは浅く、立上りの勾配は大きく(通常5゜程度)することが基本です。立上り面は平面部と同じパターンで深さを 1/2 程度にします。

19. ゲート指示

  • 金型発注時、ゲートは多い目に指示していますか?
  • 後で中止するのは問題ありませんが、追加するのは金型構造上の不都合が起こりやすくなります。
    • 後でゲートを中止するのは問題ありませんが、追加する作業は、ブッシングの締め付け、冷却回路、突出し、サポータ等に制限され、金型構造上の不都合が起こりやすくなります。

20. 自動取り出し

  • 製品を自動取り出しする時の作業性を確認しましたか?
    • 一般的に、金型の上側は自動取り出し、手前側は手動取り出しとなります。特に小物部品は無人で成形しますので、自動(ロボット)取り出しができるような構造にしておかなければなりません。

21. カジリ、バリの発生

  • 製品にカジリの発生はありませんか?
  • 製品にバリの発生はありませんか?
    • 金型仕上げ(ミガキ)不足だけでなく、それ以外の原因(射出のたびにコアが変形している等)も多いので、十分な検討が必要です。金型自身の強度が不足している場合にも発生します。

22. 入れ替えコアの逆挿入防止

  • 入れ替えコアは非対象の形状にして、逆挿入できないようになっていますか?
    • 成形現場での入れ間違いを防ぐため、入れ替えコアは非対象の形状にしておくのが最良です。

23. 金型取り付け方向の表示

  • 金型を成形機に取り付ける方向の表示はありますか?
    • 金型を成形機に取り付ける方向がわかるように、金型へマーキングしておいて下さい。特に、スライドコアの動作方向等の関係で取付け方向が限定される場合は必ず表示しておく必要があります。

24. 突き出しピンの逃げ

  • 突き出しピンの逃げを設けてありますか?
    • 突き出しピンの摺動部長さは 10〜20mm(ピン径により異なる)の範囲とし、それ以外はクリアランスをとって逃がす構造にします。クリアランス(逃げ)が無い、又は少ないと量産途中に突き出しピンの焼き付きが発生し、金型を破損させることがあります 。

25. ガス抜き

  • ガス抜きは十分ですか?
    • ガスの発生が予想される場合は金型 P/L の外周部にガス抜き溝(研削加工で深さ 0.02mm 程度のエアーベント)を設けます。

26. ボスのセンターピン

  • 長いボスのセンターピンが変形していませんか?
    • ボスのセンターピンは射出された樹脂の圧力で繰り返し変形するような力を受けます。特にゲート近くの細くて長いセンターピンは繰り返し変形によって折れることがあります。

      金型を見ただけでは変形しているかどうか見つけにくいので、製品になったボスの根元付近をカットして、断面を確認することが必要です。


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