Update - 26 Feb 2021  User PageInjection

射出成形金型

抜き勾配

 射出成形品の抜き勾配は成形(離型)時だけでなく、金型加工の際にも非常に重要な項目です。よく見かけるのは「一般抜き勾配=1°」などのように 1種類だけ指示されているものですが、部品形状や表面処理、成形性などを考慮すると、下記の原則に従って数種類の抜き勾配を指示する必要があります。

  1. 透明部品、エッチング・サンドブラスト部、スライドコア部、深いボスやリブ 等は、できる限り抜き勾配を大きくする。
  2. 抜き勾配は角度で指示します。嵌合などで特に寸法規制が必要な場合のみ、根元寸法と先端寸法を指示します。

1. 一般的な抜き勾配

 離型だけを考えれば、できるだけ大きな抜き勾配が良いが、製品設計としては抜き勾配を小さくしたい場合も多くあります。部品形状や金型の表面処理の違いによる一般的な抜き勾配は下表を参考にしてください。

 ボスやリブの抜き勾配は製品の先端寸法と角度で指示してください。先端寸法と根元寸法の両方で指示されたデータや図面をよく見かけますが、このような方法では金型加工の際、高さの異なるボスやリブ毎に角度を調整した加工用の刃物を準備しなければならず、金型加工の効率が悪くなってしまいます。

 逆にいえば、設計者がそこまで考慮して抜き勾配を指示することによって、加工用の刃物角度が数種類に統一でき、金型加工の効率も良くなるので、金型費のコストダウンにもつながります。

表1-1 一般的な抜き勾配

製品の形状 抜き勾配 備考
キャビティの外周(エッチング無し) 一般的には 2° とする。最低でも 1° は必要
1.5° 深さ 50mm〜100mm
深さ 100mm 以上
キャビティの表面(だきこみ部)  
キャビティの外周(エッチングあり)
※エッチングパターンは棚沢八光社のもの
 
例: TH-SNA1、TH-MNA1、TH-UNSA2(PS、ABS)
エッチングの深さによって異なるが 5° 以下はカジリなどが発生する
例: TH-UNCA2、TH-FNCB2、TH-FNDB2(PS、ABS)
14° 深いエッチングパターン(PS、ABS)
コアの外周 部分的には抜き勾配 0° も可能(突き出しは必須)
コア側のボス(スリーブ突き出しが必要) 0.25°  
0.5° 可能であれば 0.5° とする
0.75°  
 
コア側の底リブ 0.5° 可能であれば 0.5° とする
コア側の壁につく縦リブ 0.25°  
格子孔
金型食い切り部
最低でも 3° 

図1-1 抜き勾配の指定

2. エッチング加工部の抜き勾配

 エッチング加工部の抜き勾配はカジリ防止のためであるが、それだけでは防止できない。そのため、下記の事項については製品設計時、金型打ち合わせ時に徹底する必要があります。

  1. 勾配部にエッチング加工する場合、平面部よりも浅く加工するように指示する。
  2. 製品の肉厚はエッチングパターンが深いものほど厚(T3.5〜T3.5)くする。
  3. 偏肉は極力避け、どうしても避けられない場合は 図2-1 に示すように肉厚の変化をなめらかにする。

図2-1 肉盗みの形状

 補強リブや一般的なリブの根元も肉厚が不均一となる部分であり、ヒケや色ムラが発生しやすい。リブがある部分の肉厚変化(図2-2 に示す S1 および S2 の面積比)は概ね S2/S1≦1.15 とするのがよい。(図2-2 参照)もちろん、成形条件によって異なるので、ひとつの目安と考えてください。

S2/S1≦1.15: ヒケOK  1.15<S2/S1≦1.3: ヒケ発生の危険  1.3<S2/S1: ヒケ発生

図2-2 ヒケ発生の判定

 設計的に許されるなら、リブの根元寸法はベース肉厚の 1/2 以下、リブの高さはベース肉厚の 3倍以内としてください。インターネットなどで検索すると、ベース肉厚の 2/3 までOK書いてある資料もありますが、ほとんどの場合はヒケが発生しますので、何らかの対策が必要です。


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