Update - 22 Sep 2024 User PageWeb Links

01■200702 コマンドを使えるだけでは3DCADは使いこなせない

 企業の教育担当者にとって、「3DCADのスキルをチェックしてほしい」という要望は頭の痛い問題である。コマンド操作を重視するのであれば、CAD販売会社が実施している認定試験や、各種機関の資格などを判断基準にすればよいだろう。しかし、設計者に求められているのは「3DCADの操作スキル」ではなく、「3DCADの活用スキル」なのだ。
 
目次
    ◆操作コマンドを覚える前に
    ◆何のために3次元CADを使うのか 

◆操作コマンドを覚える前に

 手元にある3DCADのマニュアルやチュートリアルを開いてみよう。個々の操作コマンドを丁寧に説明してあるのだが、逆に「これほど大量の操作コマンドを覚えないと、使いこなせないのか…」という気分にもなる。3DCADの操作講習を受講したばかりの設計者も、(3DCADを使いこなせる)=(多くの操作コマンドを知っている)などと、勘違いしてしまいがちだ。
 
 そのような講習を受講したばかりの設計者に、簡単な段付きシャフトをモデリングしてもらうことにしよう。たいていの場合、覚えたての「回転コマンド」を使おうと考え、シャフトの断面形状のスケッチから始める。
[回転コマンド]シャフトの外形断面を2Dスケッチ機能で作図し、その形状をシャフト中心の回転軸に対して、360°回転させて、立体形状を作成するコマンド。
 この程度の断面形状とはいえ、スケッチ画面の中で悪戦苦闘しながら時間ばかりが過ぎてしまったり、完成形状を作ることに気をとられるあまり、設計者として考慮しなければならない重要な部分を見過ごしてしまったりすることも多い。
 
 このシャフトで最初に考えなければならない部分はどこだろう?動力を伝達するギアに使用するのであれば、まずは伝達トルク(ローラとピンであれば、ローラ荷重)からシャフトの直径を決定することである。
 
 しかし、実際には「伝達トルクやローラ荷重からシャフト径を決定する」以前に、設計基準をいい加減に決めている(いや、決めていないと言うべきか)設計者が多いのだ。

 例えば、シャフトの端面を設計基準にしてモデリングを始める人などが、これに該当する。シャフトの端面は加工基準や検査基準ではあるが、ほとんどの場合、設計基準ではないことに注意する。

 設計基準は、設計を始める基準点なので、物の形が無くても決められる位置に存在する必要がある。今回のシャフトに関しては、伝達する力の中心にするのが適切だろう。

 設計基準が適切で、伝達トルクやローラ荷重から決定されるシャフトの基本径に相当する円柱さえモデリングされていれば、設計検証に使用できるシャフトのモデルは簡単に作ることが出来る。
最初の円柱は設計で最終的に必要となるシャフト径に相当するものであって、実際の旋盤加工に使用する素材の最大径ではない。
 このあと、設計で考えてゆく順番に位置決め用のフランジ部、ギアやローラの固定部品を取り付ける溝をモデリングしていけばよい。今回は詳細なモデリング手順を説明するのが目的ではないので、それらは別の機会を設けることにするが、3DCADの操作コマンドを覚える前に、設計者として押さえておかなければならない「ツボ」があることを理解して頂ければと思う。 

◆何のために3DCADを使うのか

 形を作るだけであれば、断面を一気にスケッチしたり、多くの操作コマンドを利用したりと、どのような方法でも可能だろう。しかし、3DCADのスキルを評価する場合、これでは「操作スキル」の評価になってしまいがちだ。
 形状作成のスピードと結果のみを評価するのであれば、このような判断基準でもよいのだが、設計者に求められているのは、作成した立体データを用いて設計内容の検証を行ったり、不具合個所を事前に発見したり、といった「3DCADの活用スキル」なのだ。
板金ブラケットの断面を一気にスケッチして、押し出しても形は作れるのだが、設計検討に使用できるデータとなっているだろうか?
 そのように考えれば、単に形を作ることよりも、設計基準を明確にして、重要な部分を最初に作り、設計検証に使えるデータを最低限の手数で得る、という過程が重要となる。当然のことながら、設計者に対しては「形を作る過程」を判断基準にして「3DCADの活用スキル」をチェックするべきだろう。
 
 例えば、スキルチェック用の課題を与える場合も、単に「コップをモデリングしなさい」ではなく、「内容量500mlのコップをモデリングしなさい」というような課題が適切である。もちろん、出題する側にも「形を作る過程」を評価するスキルが要求されるのは当然だ。
内容量500mlのコップをモデリングする。簡単そうな課題だが、案外出来ない人も多い。
 「3DCADの活用スキル」をチェックするために頭を悩まされている、企業の教育担当者の方も、このような課題を作成して、教育する側のスキルもチェックしてみてはいかがだろうか?

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